2023/04/8

研究成果をMol Ther Methods Clin Dev.に報告しました。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態に生理構造を逸脱したミスフォールドタンパク質の蓄積が深く関わると考えられおり、抗体治療は異常構造のみを除去する分子標的戦略として有望であると考えられています。家族性ALSの20-30%においてsuperoxide dismutase 1 (SOD1)遺伝子の突然変異を認め、病原SOD1タンパク質に対する様々な治療抗体の投与がALSモデルに対して試みられてきました。しかし、有効性は限定的であり、抗体のデザインに加え、デリバリーシステムの改善により、治療効果を改善できる可能性があると我々は考えました。そこで、近年ALSでの機能低下が注目され、増殖能と非腫瘍原性を兼ね備えるオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)に治療抗体産生・分泌能を付与し、移植するという新たな治療方法の有効性を検討しました。まず、G93A変異SOD1組み換えタンパク質で免疫したマウスから得たハイブリドーマよりモノクローナル抗体D3-1を作成しました。まず、H46R SOD1 Tgラットに全長 D3-1抗体を浸透圧ポンプを用いて4週間髄腔内投与したところ、有意な発症遅延と寿命延長効果を認めました。次にD3-1ハイブリドーマ由来のcDNAから可変領域をクローニングし、リンカーペプチドで連結させた一本鎖抗体(scFvD3-1)を作成、増殖能を欠落させたボルナ病ウイルスベクターに組み込み、野生型ラット脳由来の初代培養OPCに感染させました。形質転換させたOPCは変異SOD1特異性を維持したcFvD3-1を安定的に分泌しました。H46R SOD1 Tg ラットにOPC scFvD3-1を単回髄腔内投与したところ、全長抗体の持続髄腔内投与に比較して著明な発病の遅延と寿命の延長を認めました。さらに脊髄の免疫組織解析により、運動神経細胞の減少とミクログリア、アストロサイトのグリオーシスを有意に抑制し、前脛骨筋の神経筋結合部の解析では脱神経が有意に抑制されたことも確認しました。特殊抗体を用いた腰髄ライセートのウェスタンブロット定量解析により、 OPC scFvD3-1はミスフォールドSOD1の蛋白質量を有意に低下させたことを確認しました。効果の分子機序を検討するため、腰髄組織のcDNAマイクロアレイを行ったところ、酸化低密度リポタンパク質受容体1であるOlr1などの炎症性遺伝子の転写が有意に抑制されました。以上よりOPCは抗体の有効性を改善させる送達手段であり、さらに自己複製能と薬剤制御が可能なボルナ病ウイルスベクターは増殖型細胞に安全かつ有効に用いられることが示唆されました。治療抗体を発現させるOPCは、ミスフォールドタンパク質が発症に関与しているALSに対する新しい選択肢となると考えられます。

Efficacy of oligodendrocyte precursor cells as delivery vehicles for single-chain variable fragment to misfolded SOD1 in ALS rat model.

Minamiyama S, Sakai M, Yamaguchi Y, Kusui M, Wada H, Hikiami R, Tamaki Y, Asada-Utsugi M, Shodai A, Makino A, Fujiwara N, Ayaki T, Maki T, Warita H, Aoki M, Tomonaga K, Takahashi R, Urushitani M.Mol Ther Methods Clin Dev. 2023 Feb 4;28:312-329. doi: 10.1016/j.omtm.2023.01.008. eCollection 2023 Mar 9.